高齢者における健康の社会階層格差のメカニズムとその制御要因の解明

研究会の概要

設立のきっかけ

本研究プロジェクトは、1999年に発足した「中高年者の引退過程と健康プロジェクト」(以下、「引退と健康プロジェクト」)にルーツがあります。「引退と健康プロジェクト」は、東京都老人総合研究所(現、東京都健康長寿医療センター研究所)が米国ミシガン大学と共同で発足させた「全国中高年者の健康と生活に関する日米共同プロジェクト」(以下、「日米共同プロジェクト」:1986年に開始、現在も継続中)に並列して、その研究の視点を拡大することを意図して発足されました。「日米共同プロジェクト」においては、高齢者の健康の維持・増進の要因を高齢者の社会・経済的な状況に着目して解明しようとしておりました。それに対し、「引退と健康プロジェクト」は、より若い年齢の時の生活や健康が高齢者の健康に少なからず影響するという「生活の軌跡」という視点から、高齢者の健康に影響する要因を解明しようと考えておりました。そのことによって、高齢者の健康の維持・増進への対策を、より若い時期から立てることができると考えたからです。このような問題関心から、1999年に実施した「引退過程と健康プロジェクト」の調査対象は、平均的な引退年齢よりも前の55~64歳とし、研究課題として、職業からの引退過程とその健康への影響、中高年者の就労環境、中でもエイジズムとその健康の影響の解明を主要な課題として取り上げました。

▲ページの先頭へ

社会的決定要因として社会関係と社会階層に着目

「日米共同プロジェクト」の研究課題の主要な一つに、高齢者の健康の社会的決定要因、中でも社会関係の健康影響の解明が位置づけられておりました。それは、1980年以降、欧米において、人々が取り結ぶ社会関係が健康の維持に大きく貢献するという知見が続々と発表されており、社会文化的な背景の異なるに日本においても同じような知見が得られるかという問題関心からでした。「日米共同プロジェクト」では、日本においても欧米と共通して、高齢者においても社会関係が健康に大きな影響をもたらすことを実証的に明らかにしてきております。

他方、欧米においては、社会関係に加えて、健康の社会的決定要因として社会階層に着目した研究が1980年代以降、数多く行われるようになりました。20年くらい遅れて、日本においても2000年以降、社会階層による健康格差に着目した研究が本格的に取り組まれるようになりました。日本における社会階層による健康格差への関心の高まりとともに、「現代社会の階層化の機構理解と格差の制御:社会科学と健康科学の融合に関するプロジェクト」(通称:「社会階層と健康の研究プロジェクト」、研究代表は東京大学の川上憲人氏)が発足し(2009年に開始、2013年に終了)、日本学術振興会の「新学術領域」の研究助成を受けて活動を開始することになりました。

「日米共同プロジェクト」の一環として行ってきた社会関係の健康影響に関する研究の蓄積が評価され、「社会階層と健康の研究プロジェクト」の中で「社会連帯の形成・維持機構の解明の研究プロジェクト」が位置づけられ、そこに「日米共同プロジェクト」の研究メンバーの中で社会関係と社会階層に関心のあるメンバーが参加することになりました。その際、社会関係に関心のある研究者も新規のメンバーとして、このプロジェクトに参加することになりました。同時に、「日米共同プロジェクト」の中心メンバーであった杉澤が、東京都老人総合研究所から桜美林大学大学院老年学研究科に異動したことによって、東京都老人総合研究所が「日米共同プロジェクト」を継続して担うとともに、1999年に立ち上げた「中高年者の引退過程と健康」については研究の拠点を桜美林大学老年学総合研究所に移すことになりました。

「社会階層と健康の研究プロジェクト」における「社会連帯の形成・維持機構の解明グループ」の研究課題は、社会関係を個人レベルと地域レベルで把握し、その健康影響を評価すること、社会関係の構成要素の違い(同じ特性をもった人や違う特性をもった人との関わり)による健康影響の違いを明らかにすること、社会階層による健康の影響を社会関係がどのように修飾する作用があるか明らかにすること、住民の社会関係を豊富にするための方策を提示すること、などでした。

▲ページの先頭へ

高齢者における社会階層と健康

新しく発足した「社会階層と健康の研究プロジェクト」の対象は高齢期以前の人たちでした。高齢者の場合、高齢期以前の人たちで明らかにされた社会階層による健康格差がそのまま当てはまるのか、それとも異なるあらわれ方をするかについては検討課題として残されております。そこで、「社会連帯の形成・維持機構の解明の研究グループ」では、高齢者における社会階層による健康格差に本格的に取り組むため、「社会階層と健康の研究プロジェクト」が終了したことを契機に、研究メンバーによって、「高齢者における社会的不利の重層化の機序とその制御要因の解明プロジェクト(通称:社会的不利研究グル―プ)」として、日本学術振興会の研究助成を受けて活動を継続・発展させることになりました(2014年に開始、2017年に終了)。研究課題は、社会階層による健康格差の大きさが若い人と高齢者で異なるのか、社会階層による健康格差が時代とともに拡大しているのかあるいは縮小しているのか、慢性疾患ももった人の間でも社会階層による健康格差は存在するのか、高齢期以前の社会階層が高齢期の健康格差につながるのか、社会階層による健康格差のメカニズムは何か、などでした。この研究グル―プでは、加えて、定年延長など中高齢者の就業を巡る環境がこの10年間に大きく変化していることから、これらの制度変更が中高年就労者の職業ストレスなどにどのような影響をもたらすのかを評価するため、1999年に実施した「中高年者の引退過程と健康」と同じ年齢層の男性(55~64歳)を対象に、ほぼ同様の調査項目を用いて2017年に調査を実施しました。

社会的不利研究グル―プの活動を継続・発展させるため、現在、社会階層がなぜ高齢者の健康に影響を与えるのか、そのメカニズムの解明とそれを制御する方法を探るため、「高齢者における健康の社会階層による格差のメカニズムとその制御プロジェクト」(通称:格差研究グループ)という名称で、2018年から日本学術振興会の研究助成を受けながら、継続的に研究に取り組んでおります。

▲ページの先頭へ